第3章
優子視点
見慣れた自宅のベッドの上、私はとろんとした夢見心地な表情を浮かべて横たわっている。その傍らには、黒い革の仮面をつけた長身の男が立っていた。仮面は顔全体を覆い隠しており、そこから覗くのは深く暗い瞳と、くっきりとした顎のラインだけだ。
動画のタイトルにはこうある。『従順な人妻~今夜0時から生配信~』。
「一体なんなのよ……こんなの、ありえない……」
信じられない思いで、私はうわごとのように呟く。震える手でマウスを操作し、そのライブ配信部屋へと入る。最新のアーカイブ動画には、まさに昨夜の日付が記されていた。
何者かの力に操られるように、私は再生ボタンを押してしまった。
画面の中、ベッドに横たわる私に、あの黒い仮面の男が……。直視に耐えない光景だったが、どうしても目を逸らすことができなかった。
男がつけているのは特注品なのだろう、優美な装飾が施された黒革の仮面で、顔立ちは完全に隠されている。その体躯は長身かつ筋肉質で、引き締まった肉体をしており、純一のような痩せ型とは似ても似つかない。
何よりおぞましいのは、画面の中の私がどこか陶酔したように協力的で、まるでその行為を心から悦んでいるかのように見えることだった。
チャットルームには、おびただしい数の醜悪なコメントが流れていた。
「仮面の男、テクすげえ! 正体不明ってのがまた唆る!」
「奥さん完全にイッちゃってるじゃん。これマジで気づいてないの?」
「3万円スパチャ! 仮面の兄さん、もっと激しく攻めてくれ!」
一瞬で膝の力が抜け、私は倒れ込まないよう必死で机の縁を掴んだ。
吐き気を堪えてチャット履歴を遡ると、『夜王J』という名のアカウントが視聴者たちと交流しているのが目に入った。
「俺の配信ルームへようこそ!」
「妻は完全に意識ないよ。睡眠薬がよく効いてるからね」
「今夜の仮面の兄貴、いい仕事してくれたな。また次回もコラボしよう」
「こいつは最高の玩具だよ。俺たちの好きに遊べる」
「みんな、スパチャサンキュー!」
そのユーザー名……『夜王J』……Jは、純一のイニシャルだ!
胃の底から何かが込み上げ、強烈な吐き気に襲われる。
「あの……クソ野郎……」
うめくような悪態が漏れた。
この男は、私が二年も愛し信じてきた夫は、金儲けのために仮面の他人を手配し、私を襲わせ、あろうことかその様子を世界中に配信していたのだ!
アカウントの収益画面には、過去三ヶ月だけで私の身体を使って300万円以上を荒稼ぎした履歴が残っていた。
夫との親密な愛の営みだと思っていたあの時間は、実際にはおぞましい取引の現場だったのだ。そして、私を抱いていたのは、仮面の下に素顔を隠した赤の他人だったなんて。
その時、廊下から聞き覚えのある足音が響いてきた。
純一が帰ってきたのだ。
私は慌ててウェブページを閉じた。心臓が早鐘のように激しく脈打っている。純一がドアを開けた瞬間、私はすでに窓辺に立ち、外の景色を眺めるふりをしていた。
「優子? ここで何をしているんだ?」
純一はどこか狼狽した様子で、素早くパソコンの画面と、あのメモに視線を走らせた。
「お弁当を届けに来たのよ」私は努めて平静を装い、声を絞り出した。「あなたが不在だったから、待たせてもらってたの」
「気の利く妻を持って幸せだよ」彼は私を抱き寄せたが、その体が強張っているのがはっきりと伝わってきた。「次は事前に電話をしてくれよ。もし機密書類を扱っていたらどうするんだ」
彼の抱擁に反吐が出そうだったが、私は必死に吐き気を抑え、彼を突き飛ばしたい衝動に耐えた。
「わかったわ」私は言った。「そろそろ帰るわね。家で絵麻が待ってるから」
「そんなに急ぐのか?」純一の瞳に疑念の光が宿る。彼は素早い手つきでメモをポケットにねじ込んだ。「さっきまで、何をしていたんだ?」
「何も。ただ外の景色を見ていただけよ」私は逃げるように鞄を掴んだ。「お弁当は机の上に置いてあるわ。温かいうちに食べてね」
私は半ば逃げ出すようにして、彼の事務所を後にした。
帰宅するなり、私はもう自分を抑えることができず、浴室へと駆け込み激しく嘔吐した。あの映像が脳裏で何度も再生される。黒い仮面の他人、協力的な私の表情、視聴者たちの醜悪なコメント……。
どれほどの時間が経っただろうか。無理やり心を落ち着かせた私は、意図的にブレーカーを落として停電状態を作り出すと、慎重に家の中を捜索し始めた。ライブ配信が行われているのなら、必ず室内に撮影機材があるはずだ。
ナイトテーブルの裏側、一つ目の小型カメラを発見する。
クローゼットの上、二つ目を見つける。
そして浴室の通気口の中、三つ目を見つけ出した。
どのカメラも、最もあられもない姿を捉えられるよう、周到かつ正確に配置されていた。
洗面所のゴミ箱の底から、私は『マイスリー錠5mg』とラベルの貼られた空の薬瓶を見つけた。医師処方の睡眠導入剤だった。
これですべての辻褄が合った。
純一は私の食事に薬を盛り、意識を混濁させていたのだ。そして、あの仮面の他人を家に招き入れ、私を襲わせ、その一部始終を変態的な視聴者たちに向けてライブ配信していたのだ。
「ずっと、監視されていたのね……」
私は誰のいない部屋で呟いた。
「あの仮面の男……一体誰なの? なぜ顔を隠す必要があるの?」
恐怖と嫌悪が去り、代わりに胸の奥で怒りの炎が燃え上がった。
「あの……クソ野郎どもが!」
私は歯を食いしばり、唸るように言った。
あのメモによれば、今夜の零時に続きがある。
証拠を掴まなければ。この野郎どもに絶対に報いを受けさせてやる。
あの忌々しい仮面を引き剥がし、その裏に隠れた正体を暴いてやるわ!
午後九時。私は居間のソファに座り、あの『特製ミルク』を持って近づいてくる純一を見つめていた。
今夜が、私の人生の分岐点になる。
「優子、今日は疲れているみたいだね」純一は優しげな笑みを浮かべ、コップを差し出した。「蜂蜜を入れておいたよ。よく眠れるはずだ」
私はコップを受け取り、彼の期待に満ちた視線を感じた。この外道は、まるで何事もなかったかのように、こんなにも自然に私に微笑みかけることができるのだ。
「ありがとう、純一」私はコップを持ち上げ、彼が見守る中、一気に飲み干してみせた。「本当に優しいのね」
彼は満足そうに頷いた。「じゃあ、早く休むといいよ、優子。俺はまだ片付けなきゃいけない仕事があるから」
「わかったわ、先にシャワーを浴びるわね」私は立ち上がり、わざと少しふらついてみせた。「なんだか、めまいがする……」
「蜂蜜の効果だよ。すぐに気分も良くなるさ」純一は私を支えたが、その瞳の奥に悪意が閃いたのを私は見逃さなかった。「シャワーに行っておいで。俺もすぐに行くから」
私は頷き、意識が朦朧としているふりをしながら階段へと向かった。
しかし二階に上がるや否や、私は浴室へ駆け込み、便器に膝をついて喉の奥に指を突っ込んだ。
激しい嗚咽と共に、今飲み込んだばかりのものをすべて吐き出した。あの忌々しい睡眠薬も含めて。胃が激しく痙攣したが、薬の痕跡を一切残さないためにはこうするしかなかった。
嘔吐を終えると冷水で口をゆすぎ、私は静かに寝室へと戻った。
今夜こそ、あの人の『正体』を見極めてやる!
だがその前に、あの忌々しいカメラをどうにかしなければならない。
私は足音を忍ばせてブレーカーの元へ行き、意図的に『事故』を起こして主電源を落とした。家全体が闇に包まれる。
「優子? 停電か?」階下から純一の声がした。
「わからないわ、配線の問題かも!」私は答えた。「もう寝るから、あなたが見てきて!」
「わかった、見てくるよ!」
完璧だ。これでライブ配信を妨害できるし、準備をする時間も十分に稼げる。
私は暗闇の中を手探りで寝室へ戻り、ベッドに横たわると、寝ているように見せるため呼吸を整えた。だが実際には、全身の神経を張り詰めさせ、あのクソ野郎が現れるのを待っていた。
三十分ほど経った頃、純一が二階へ上がってくる足音が聞こえ、誰かと低い声で話しているのが耳に入った。
「回路は直ったが、カメラが一時的にダウンしてる……まあいい、どうせ彼女は熟睡してるんだ……計画通り進めよう」
心臓が早鐘のように激しく打つ。
深夜零時きっかりに、忍び足のような微かな足音が聞こえた。
誰かが寝室に入ってきた。
薄く開けたまつ毛の隙間から、ビデオで見た通りの黒い革の仮面をつけた長身の人影が見えた。廊下の薄明かりの中、そのシルエットがはっきりと浮かび上がる――広い肩幅、厚い胸板、そして長い脚。
彼はゆっくりとベッドに近づいてきた。
「また会えたな、奥さん」男は低い声で囁いた。
私は必死に身じろぎを堪えたが、胸の内の怒りは沸点に達していた。
彼は私のパジャマのボタンを外し始めた。その手つきは反吐が出るほど慣れていた。指先は氷のように冷たく、私の体は震えた――快楽からではない、激しい怒りのせいだ。
彼がさらなる行為に及ぼそうとしたその瞬間、私はもう我慢の限界だった。
「やめて!」
私はカッと目を見開き、渾身の力で彼を突き飛ばした。
