第5章

 真琴と私は、とあるレストランで契約を交わしていた。

「海外の生地問屋が急用とかでね。来月の初旬には向こうへ飛ぶことになる」

 真琴が書類を差し出す。

「サンプルはすべて揃えてあるよ」

 私は署名欄にサインをした。一つの境界線を乗り越えたような感覚に包まれる。

「ありがとう」私は言った。「あなたがいてくれなかったら、ここまで来られなかった」

 彼はグラスを掲げた。

「君の新しいブランドに。そして、新たな始まりに」

 グラスを合わせる。その瞬間だった。視界の端、店の奥まった席に見覚えのある姿が映り込んだ。大輔だ。

 杏奈が彼にぴったりと寄り添い、楽しげにさえずりながら指先で彼...

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