第6章
航平は平村邸の重厚な扉を押し開けた。
邸内は死んだように静まり返っていた。
「律子!」ネクタイを乱暴に緩め、苛立ちを込めて怒鳴る。
返事はない。
ただ自らの声が、がらんとした広間に虚しく響き渡るだけだった。
妻が本当に去ってしまったのだと、航平はここに至ってようやく悟った。
「航平……」扉の向こうから、か細い声がした。
ショールを羽織った優香が、目を赤くして廊下に立っていた。
彼女は中へ入ろうとし、航平の袖を掴もうと手を伸ばす。
「律子さん、本当にあなたを捨てちゃったの? 航平、悲しまないで。あなたには私がいるわ」
「出て行け」航平は怒号を飛ばした。
優...
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