第1章
昨季のグランド・オルファクトリー・ガラで、西園寺玲華は、私が壇上に上がる前に私の調合を発表してみせた。
私は彼女に詰め寄った。玲華は「証拠は?」と尋ねた。
何もなかった。調合は一度も頭の外に出ていない――メモも、記録も、何も。どうやって彼女が手に入れたのか、私にはわからなかった。
わからないまま、私は死んだ。
そして目を開けたとき、彼女はもう私に手を伸ばしかけていた。
「今度は、そうはいかない」
私は一歩、後ろへ退いた。
……
司会者が話の途中だった。瞬きをした瞬間、意識が自分の身体へ戻ってくる。
「――今夜のファイナリストは、こちらのお二人です。皆さま!」
拍手が会場を叩いた。人波の下のほう、私の周りの席区画では、掛け声が起きていた――大きく、確信に満ちていて、まるでまだ『知らせ』が届いていないみたいに。
私は周囲を見回す。シャンデリア、シャンパン、正装に身を包んだ三百人。グランド・オルファクトリー・ガラ。
――まだここにいる。まだ起きていない。
西園寺玲華は、私のすぐ隣に座っていた。
私が顔を上げた途端、待っていたかのように彼女がこちらへ向き直る。あの笑み――柔らかくて、少し控えめで、写真に収まりのいい笑み。
「今夜、何が起きても」玲華は言った。
「最後があなたと私の二人になって、うれしい」
私は息を止めるように固まった。
彼女を見た瞬間、記憶が一気に押し寄せてくる。
十八か月前、業界は私たちを『注目すべきライバル』として並べていた。玲華には西園寺の名があり、三代続く財と、私には一生かけても辿り着けない扉を開けるコネがあった。私には、そんなものは何もない。
私が持っていたのは、別のところから来るものだった。血筋の女たちは何世紀も前から『作る』ことをしてきた――ただ香るだけじゃない、何かを起こす調合を。理屈は誰にもきれいに説明できない。業界はそれを「勘」だと呼び、それ以上は踏み込まなかった。
それでも私は、ひとりで騒ぎ続けた。
私が密かに開発していた調合が昨年漏れた――今もどうやって漏れたのかはわからない。それを『しかるべき人間』が嗅ぎつけた。一か月後、玲華は新作コレクションを発表した。さらに半年後、そのコレクションが私たち二人をこの舞台へ連れてきた。
前回、私はこの部屋のこの場所に立ち、彼女が審査員に向かって私の調合を読み上げるのを見た。配合比率も手順も、一言一句。私は「どうして?」と問うた。玲華は、ただ「証明して」と言った。できなかった。比率も判断も、すべて私の頭の中にしかなかった。紙も、録音も、証人もない。
観客の空気がひっくり返ったのは、真夜中になる前だった。まず彼女の側が熱を帯び、それから私の側が静かに崩れた。
それでも私は、彼女がどうやったのかを知らないままだった。
――同じ筋書き。拍手が波のように押し寄せる中、玲華がその上品で殊勝な表情を保っているのを見て、私は理解してしまう。今の彼女は、寛大でいられる。今夜の結末を、彼女はもう知っているのだ。
鳥肌が立った。
司会者が咳払いをする。
「最終ラウンドです――各調香師は、それぞれの専用アトリエへ。制限時間は三十分、作品を完成させてください。戻り次第、くじ順に審査員へ提示していただきます」一拍置いて。「最初の提示者が、今夜の基準となります」
背筋が冷えた。
最初に出せば、それが『オリジナル』になる。二番手は、どれほど自分が先に作っていても、似ていれば『模倣』に見える。玲華は一番手が必要だ。いつだって必要だった。それがなければ、仕掛けそのものが崩れる。
廊下へ続く方へ向けて、舞台の照明が落とされていく。儀式が始まる直前の、あの種類の静けさが会場を満たした。
玲華が私へ向き直る。彼女は片手を差し出した。慣れた、淀みのない動き――こういう場で、人が何の疑いもなく互いに手を伸ばす、その仕草。
「健闘を祈るわ、伊織」
彼女の指先が、私の手首まであと一寸のところにあった。
