第4章
会場中の視線が、ステージ床に転がる予備のボールへ向けられ、それから私へと戻ってきた。
しばらく誰も何も言わなかった。やがて、誰かが拍手を始める――ゆっくり、不安げに――その音を縫って玲華の声が響いた。
「私、本当にあれが何なのか分からないの」玲華は磁気の装置に目を落とし、続いて客席を見上げた。両手を体の横で開いたまま。
「ガラのスタッフが毎年、あの壺を渡してくるの。みんなと同じ。もし何かおかしいっていうなら――」そこで言葉を切る。沈黙を、わざとそのまま置いた。
「伊織、先にやりたいなら、そうすればいいわ。くじの順番で争うつもりなんてないもの」
ためらいがちだった拍手が、少しずつ温度を帯びていく。
スポットライトが玲華の顔を捉えた。スポットライトに似合いすぎるほど、いい顔だった。まるで、寛大にも、これを自分の話にはしないと選び取った人みたいに。
私はステージの真ん中に立ち尽くしていた。百年物のクリスタルの壺の破片に囲まれているのに、その代償に見合うものは何ひとつ手元になかった。
「……分かった」
言い終える前から、言うと決めてしまっていたみたいに言葉が滑り出る。
「私が先にやる」
玲華が瞬きをした。
一度だけ。ほんの一瞬だけ――彼女の瞳の奥で、何かが動いた。パニックではない。けれど、その隣に住んでいる種類のもの。玲華の視線が、かすかに横へ流れる。会場の奥、後方のVIP席のほうへ。
(この子、全然平気じゃない)
気にしていないと言った。だけど、気にしている。
その事実を、私はまだどう扱えばいいのか分からなかった。
「素晴らしい」司会者が口を開く。
「双方の合意が得られたのであれば――」
「待ってください」
声は審査員席からだった。
……彼の存在を忘れていた。前回と同じ失敗。
九条司が、審査員席から立ち上がった。私の婚約者。今季この審査を務める現役の審査員であり、それ以前に――私に、この業界で本当に未来があると言ってくれた人。丸一年の大半を使って、それを私に信じさせた人。
司は、急ぎの用事があるのに、わざわざここで立ち止まってやったと言わんばかりに、ステージ前へ歩み出た。
「伊織」淡々と。理性的に。誰かに辛抱強くしているときの声だった。
「今夜がつらい夜だったことは理解しています。しかし、あなたは百年以上も残ってきたガラの所有物を破壊した」
彼は会場を見渡す。
「壺から出てきたあの装置についても――それがどこから来たのか分からない。誰が、いつ入れたのかも分からない」言葉をそこで一度置き、観客に沈めた。
「分かっているのは、神崎さんが著しい動揺状態でステージに上がったこと、そして今、ここにいる全員の目の前で百年の伝統ある機関の備品を破壊したという事実です」
さらに、短い沈黙。
「壺についての正式な調査は行われます。しかし調査には時間がかかる。その間――」司は審査員席へ目をやり、また観客へ視線を戻した。
「――審査員として、そして――」慎重に置かれた間。
「――彼女を最もよく知る者として、最も公平なのは当初の抽選順に従うことだと考えます。玲華が先に発表する。それが、今夜この場が受けるべき対応です」
拍手は即座に起きた。
昨季も、彼はほとんど同じことを言った。あの「彼女を最もよく知る者として」の前の間も同じだった。二人の関係を思い出させる、その一言を、彼はこういう瞬間のためだけにいつでも取り出せる場所にしまっているみたいに。
客席がざわつき始めた。誰かが私に出ていけと叫ぶ。別の声がそれに重なる。
私はその場に立ったまま、音がずっと揺れ続けた――近くなったり遠くなったり、近くなったり遠くなったり。途切れ途切れの通信みたいに。手が冷え切っていた。足も冷え切っていた。本来なら感じられるはずの床の感触が、まるで伝わってこない。
司がステージ前から私を見た。表情は、以前の私なら「心配してくれている」と信じていた顔だった。
司会者が、相変わらず笑顔のまま私の横へ現れる。
「神崎さん――司も同意されましたので、進行に移りましょう。所定の位置へお願いします」
