第5章

「いいえ」

 言うつもりだと自覚するより先に、言葉が口をついて出た。

 司会者の表情が、何か複雑な場所へと沈んだ。端然と、微動だにせず座っていた玲華は、指先を目元に押し当てる。司がマイクの前に一歩戻った。

「伊織」その声は、ぞっとするほど辛抱強かった。「この会場にいる全員が、お前が事態をさらに悪くしていくのを見てる。分かってるだろう」

 それだけで群衆には十分だった。再び唱和が湧き上がる――「解放しろ、解放しろ」――一定で、統一された声。三百人が、もう完全に腹を決めている。

 私は聞くのをやめた。

 視線が舞台奥、反対側にあるプレゼン用の作業台を捉える――私の作業台。開演前に設置...

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