第6章

 観客が玲華の質問の意味をまだ咀嚼しきれずにいるところへ、袖から助手が革張りのケースを抱えて現れた。

 玲華はそれを受け取ると、審査員席のテーブルに向き直った。

「私は三年間、自分の創作過程を記録してきました」彼女はケースを置き、蓋を開けた。中にあったのは分厚い記録帳――保存用の上質な紙に、表紙の見返しには公証人の封印まである。

「これは、いま伊織が発表した配合の制作記録です。最初の記載は十四か月前から」

 係員がページを撮影し、ステージ上方の表示スクリーンに映し出した。

 観客は彼女と一緒にその内容を追った。十四か月分の開発ノート。修正の履歴、原料の入手記録、失敗した試験。しかも...

ログインして続きを読む