第6章

私の事務所は小さかった。街中にある古いビルの二階にある、たった一部屋だけの空間だ。窓からは本町通りが見下ろせて、寒くなるとラジエーターがガタガタと音を立てた。

それでも、ここは私の居場所だった。

壁には私の仕事の軌跡が飾られている。手描きのスケッチやパース図、この半年で手がけたプロジェクトの完成写真。公民館の改修、住宅のリノベーション、小さな店舗のデザイン。どの作品にも私の想いが込められている。私のビジョンが、私の声が息づいている。

他の誰のものでもない、私のものだ。

離婚が成立したのは三週間前のことだ。新しい書類棚を置く場所を測っている最中に、咲良から電話があった。「終わ...

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