第10章

夜は水のように冷えているのに、部屋の中だけは別の熱に満ちていた。

鈴木真代は片手で浅木辰也の首に腕を回し、甘く囁く。

「辰也……」

暖かな橙色の壁灯が女の頬を照らし、その瞳に宿る期待が浅木辰也の目に映る。

その目を見た瞬間、なぜか彼の脳裏に浮かんだのは、別の女だった。

桑野夜子。

桑野夜子の目は、形のいい杏のような大きな瞳で、澄みきっていた。

あの女はいつも、嬉しそうに、何かを待つような目で自分を見上げていた気がする。そこにあったのは、隠しようのない恋情。

それなのに。

そんなふうに、まっすぐ愛を向けていた女が、自分から離婚を切り出された途端、ためらいもなく頷いた。

浅木...

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