第101章

会議が終わったあと、松村炎は廊下で桑野夜子を呼び止めた。

夜子は足を止め、振り返る。男は口元に、あるのかないのか分からない笑みを浮かべていた。気だるげな調子に、からかうような響きが混じる。

「桑野様——一生、海外に隠れて戻ってこないつもりかと思ってた」

それが誰かの肩を持つ言葉なのか、ただの皮肉なのか。夜子には判別がつかない。ただ淡く口角を上げただけで、目に後ろめたさは一片もなかった。

浅木辰也とは、円満に離婚した。

誰にも、何ひとつ負い目はない。

「普通の人事異動よ。それに、ここは私の故郷。戻ってきちゃいけない理由がある?」

松村炎は、夜子の冷えた表情を見つめる。さっきまでの...

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