第104章

浅木辰也は、桑野夜子の家を出ていった。肩を落とし、さっきまで吐いていた強がりの言葉とは裏腹に、顔からは芯の強さが抜け落ちている。

その苦しみを、暗がりの奥から見つめる視線があった。

窓を半分だけ開けたセダンの中。男は火のついた煙草を片手に挟み、月光を受けた玉のように整った横顔は、かえって冷ややかさを増していた。

浅木辰也という狂った男が、いずれ乗り込んでくることは分かっていた。だが、こんなにも早いとは思わなかった。

今夜の夜子の妙な振る舞いが、嫌な予感を膨らませていた。浅木が彼女の家から出てきた瞬間、浦原淳宏は自分の胸の底に沈んでいたものが、どれほど醜い「不甘」だったのかを思い知らさ...

ログインして続きを読む