第109章

風が容赦なく頬を叩く。腰に回された大きな手は、逃げ場を与えないみたいにきつく彼女を抱え込んでいた。

本来なら恐怖で震えていてもおかしくないのに、桑野夜子の胸には不思議なくらい怯えがなかった。

――浅木辰也が、私を傷つけるはずがない。

そう確信しているからだ。

ただ、その突拍子もない行動には、さすがに腹が立つ。

馬が止まるや否や、夜子は仕返しとばかりに彼の腰をぎゅっとつねった。

「浅木辰也! 言ったでしょ。病気なら薬飲んで! 私まで巻き込んで一緒に発狂しないで!」

燃えるような美しい瞳で睨み上げられ、辰也は不敵に眉を上げる。

「俺が一緒に発狂するって決めたなら、お前を守り切るく...

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