第11章

「なに、それ……!」

下津紗恵が叫んだ。怒りを含んだ声で詰め寄る。

「辰也が……あの人が、直接言ったの? その子はいらないって?」

全身の力が抜けたまま、桑野夜子は椅子の背にもたれた。返事の声は羽のように軽い。

「……うん」

三年待ち続けた人が帰ってきたのなら、舞台を降りるのは自分だ。

子どもは、たった一度の「まぐれ」だった。祝福されないまま生まれてくるくらいなら、最初から――生まれないほうがいい。

夜子はすぐに中絶手術を予約した。残さないと決めたのなら、引き延ばしたくなかった。

時間が経てば経つほど、手放せなくなるのが怖かったから。

「……ほんとに、堕ろすの?」

受付で...

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