第111章

幸い、そのときだった。耳をつんざくような着信音が、車内の沈黙をぶち破った。

相手は相当しつこい。浅木辰也が出ないと見るや、切らずに何度でもかけてくる。とうとう浅木辰也が苛立ちを隠しもせず、通話ボタンを押した。

「松村炎。用があるなら手短にしろ」

凍りつくような声だった。

電話口の向こう、明らかに「いいところ」を邪魔された不機嫌さを感じ取ったのか、松村炎は眉を軽く上げる。

「もうホテル着いたけど。お前ら、どこ?」

浅木辰也は、隣で警戒を解かない女をちらりと見て、唇を薄く結んだ。

「すぐ行く」

ぷつり。通話を切ると、彼は前を向いてエンジンをかけた。

桑野夜子は、松村炎の電話に心...

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