第116章

下津紗恵は一歩あとずさり、不機嫌そうに浅木辰也をにらみつけた。表情だけは、かろうじて落ち着いている。

「……どうして、ここにいるの?」

浅木辰也はきりっとした眉をひそめ、整った顔立ちに焦りを滲ませる。

「夜子のあとを追ってきた。スマホを見た途端、急にここへ来ただろ。何があった?」

さっき病院の入口で、うっかり年配の女性にぶつかってしまった。慌てて起こして顔を上げた時には、桑野夜子の姿はもうどこにもなかった。

夜子は本当に用心が足りない。尾けられていることにすら気づかないなんて。

――この様子だと、子どもたちのことは知らない。

下津紗恵は胸の奥をそっと撫で下ろし、真面目くさった顔...

ログインして続きを読む