第68章

桑野夜子の退職手続きは、あっけないほど早く片づいた。

海外行きの準備も、ほとんど整っている。出発前に、どうしても浅木のお婆さんに会っておきたかった。

この数年、お婆さんは夜子を本当の孫みたいに可愛がってくれた。去るなら、きちんと挨拶をしなければいけない。

夜子はわざと、浅木辰也が仕事に出ている時間を選んだ。顔を合わせたら、きっと気まずいから。

別荘は昔と変わらない。玄関を入った瞬間、家政婦がぱっと顔を上げ、いつもの調子で駆け寄ってきた。

「奥……桑野さん、お帰りなさい」

途中で言い直した声に、夜子の胸がちくりとする。まだ慣れない。それでも、できるだけ穏やかに尋ねた。

「お婆さん...

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