第69章

男はその場に立ったまま、眉目に笑みを湛えて彼女を見つめた。端正な顔には、やわらかな色が満ちている。

「俺を見て、意外だった?」

桑野夜子は眉を寄せたまま近づき、彼の背後に置かれたスーツケースへ視線を落とす。

「……海外に行くの?」

胸の奥にうっすらと浮かんだ予感があったが、言葉にはしなかった。

浦原淳宏は小さく頷き、指先で彼女の目尻の涙をそっと拭う。笑みを崩さず、穏やかに言った。

「国内の会社はだいたい落ち着いた。これからは海外で新規事業を広げるつもりだ。……となると、また会うことになるかもな?」

桑野夜子は、さっきまでの悲しみを一瞬で忘れていた。眉をひそめたまま浦原淳宏を見上...

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