第70章

江原靖友は清冽な顔に警戒を浮かべ、鋭い視線を浅木辰也へ突き刺した。

浅木辰也のことは知っている。下津紗恵の親友の夫だということも。

だからこそ靖友は礼儀を崩さず、軽く手を上げて告げる。

「そちらの方、俺の彼女はあなたを歓迎してないみたいです。悪いけど帰ってもらえますか。これ以上しつこいなら、警察呼びます」

下津紗恵の前に立って庇う男を見つめた瞬間、浅木辰也の脳裏に、桑野夜子と過ごした日々が不意に蘇った。

――そうか。

だからだ。だから夜子は離れた。

最初から最後まで、自分はこの男みたいに、迷いなく彼女を選んだことがなかった。

だから彼女は愛想を尽かし、もう二度と会いたくないと...

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