第88章

電話を切ったあと、桑野夜子はスマホを見つめたまま、しばらく動けなかった。眉間には深い皺。

浦原淳宏が戻ってきた本当の理由――薄々、察しはついている。けれど止める筋合いもないし、止めたところで無駄だ。彼が「帰る」と決めた時点で、もう答えは出ている。

温厚そうに見えて、いったん腹を括ったら九頭の牛でも引っ張れない男。浦原淳宏は、そういう人だ。

「戻ってくるのって、いいことじゃない? なにその苦虫噛み潰した顔」

ふいに声がして、夜子は顔を上げた。ドア枠に腕をかけ、にこにこと覗き込んでくる下津紗恵と目が合う。

夜子は眉を寄せる。

「よく言う。先輩に招待状送ったの、紗恵でしょ?」

下津紗...

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