第95章

桑野夜子は、江下文子が昔から目が肥えていて、ちょっとやそっとじゃ「いい」と言わないことを知っている。そんな彼女が一目で気に入り、しかも自分から追いかけたいと思う男なら――相当、出来がいいに違いない。

夜子は笑みを含んで身を寄せた。

「どれどれ、見せて」

文子はスマホのアルバムを開き、1枚の写真を引っ張り出す。

……が、ひどい。遠すぎて全身も入っていないうえ、手ブレで輪郭が溶け、ほとんど影絵みたいになっていた。

それでも、雑踏の中で一本だけすっと伸びた高く細いシルエットが、妙に目を引く。

顔は判然としないのに、漂う雰囲気だけがやけに上等だ。

夜子は眉をひそめた。

「ここまでブレ...

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