第1章
「放して! 沈村政志に会わせて!」
渋谷の最上階にあるペントハウス。鈴宮若子は喉を潰したような声で叫んだ。
身をよじって逃れようとしても、手首も足首も縄で固く縛られ、巨大なベッドの上に屈辱的な格好で固定されている。九か月の腹は無防備に空気へ晒され、乳首には金具が噛みついたまま、にじんだ母乳が白く汚れ、熱を持って痛んだ。
「お姉ちゃん、そこまでされても、まだ政志さんに会いたいの?」
くすり、と笑う声が横から落ちる。
ソファに腰掛けた林原雨子が、楽しげに若子の裸を値踏みするように眺めていた。目にあるのは蔑みだけだ。
「そんな汚い身体、政志さんだって一目見ただけで吐き気するわ」
「黙れっ!」
若子が必死に暴れるほど縄は肉に食い込み、手首から滲んだ血がシーツを染めた。
「林原雨子……このクズ! 私をハメて、不倫したってことにした! あの写真、全部捏造じゃない!」
「捏造でもいいでしょ。政志さんが信じれば、それで終わり」
雨子は笑みを深くし、得意げに瞳を細める。
「じゃなきゃ、なんであんたがここで犬みたいに縛られてると思うの?」
若子の目が一気に充血した。狂ったように身をよじり、喉が裂けるほど叫ぶ。
「林原雨子! お腹の子は沈村政志の子よ! あんたがこんなことしたって知ったら、あいつは――絶対にあんたを殺す!」
「……あ、そうだ。言われて思い出した」
雨子がすっと立ち上がった。顔には愉悦が浮かび、声は弾んでいた。
「政志さん、もう羊水で親子鑑定してるの。この子、政志さんとは一ミリも関係ないって。だから、堕ろせって言われてるのよ。私が」
「そんな……ありえない……」
若子は首を振った。信じられない、という顔のまま。
結婚して五年。彼以外に触れさせたことなんてない。なのに、どうして。
「絶対あんたが……鑑定を偽造――」
言いかけた瞬間、子宮の奥を槍で貫かれたような激痛が走り、若子は身体を折り曲げ、喘ぐような呻き声を漏らした。
雨子が眉を上げる。
「どうしたのお姉ちゃん。まさか、産まれそう?」
若子は荒く息を吸い、額から冷や汗を噴き出しながら懇願した。
「病院に……お願い……連れてって……」
「そんなにその「因果の子」を産みたいなら、手伝ってあげる」
雨子はそう言って、ぱん、と手を叩いた。
寝室の扉が開き、体格のいい黒人が三人入ってきた。
全裸。手には、すでに昂ぶった肉塊を弄びながら、ベッドの上の若子をねっとりと見つめる。口元には下卑た笑みが張りついていた。
若子の声が震える。
「林原雨子……あなた、正気……?」
雨子はベッドの足元に置かれた三脚の横へ行き、カメラを起動して、レンズを若子に向ける。角度を整え、淡々と準備を終えると、三人へ言い放った。
「この人、東京でもトップクラスのモデルなの。いま急いで産みたがってるんだって。お腹の中身を――出してやれた人には、たっぷりご褒美あげる」
三人の目が、同時にぎらついた。
「林原雨子――っ!!」
若子の叫びは、最初に飛びかかってきた男に塞がれた。
飢えた獣みたいに身体を覆いかぶせ、歯で乳首の金具を噛み取る。じゅる、と貪るように吸い付かれ、若子は喉の奥で悲鳴を潰した。両手は縛られたまま、押し返すことすらできない。
続いて二人目が若子の脚を無理やり開き、硬く反り返ったものを狙い定めると、容赦なく突き入れた。
三人目は顎を掴み上げ、臭気の混じった肉を口へ押し込み、喉奥までねじ込む。男は酔ったような顔で腰を揺らした。
誰かが更に興奮を求めたのか、手首の縄をほどき、その手を口に含んで舐め啃った。
シーツはぐしゃぐしゃに引き裂かれ、血と体液が散って染み込んでいく。
若子は涙と唾液を絡め、喉から壊れたような嗚咽を漏らした。三人に同時に蹂躙され、九か月の腹が衝撃のたびに大きく揺さぶられる。
――落ちていく。
そう感じた。
陣痛と侵入の二重の痛みで視界が何度も暗転し、意識が削られていく。
「や……お願い……やめ……っ」
言葉にならない。口は塞がれ、残るのは「ん゛、ん゛」という呻きだけ。
雨子はカメラの後ろに立ち、満足げな笑みを浮かべたまま、のんびりと画角を調整していた。
若子の意識が溶けていく。
下半身から熱いものが溢れ出し、突き上げられるたびに子宮ごと押し出されそうになる。生きたまま裂かれていくような痛みに、若子は悲鳴を上げた。
シーツはあっという間に赤く染まった。
「もうすぐだ! 破水したぞ!」
男の一人が興奮で叫ぶ。
「いい子」
雨子は笑って言った。
「続けて。止めないで」
「いやぁぁぁっ――!」
若子の絶叫は、三人の荒い息づかいに呑まれた。
身体が内側から外側まで、ばらばらに引き千切られていく。どこもかしこも、致命的な痛み。
意識が完全に途切れそうになった、その瞬間。
寝室の扉が、蹴り破られた。
沈村政志が立っていた。高い鼻梁。薄い唇は一本の線に結ばれ、目は氷のように冷たい。そこにいるだけで空気が重くなり、息が詰まるほどの圧が広がる。
視線が乱れたベッドへ走り、裸の若子と、その上に覆いかぶさる三人を捉えた瞬間――彼の顔から色が消えた。殺意の形をした沈黙。
三人は一斉に青ざめ、慌てて若子から転げ落ちるように離れ、床に膝をついた。血の付いたそれを晒したまま、震えている。
「政志さん!」
雨子は瞬時に表情を作り替え、カメラを止めると、泣きそうな顔で沈村へ駆け寄った。
「やっと来てくれた……! 私、必死に止めたの。妊娠してるのに乱暴なことしないでって。でもお姉ちゃん、こういうのが刺激になるとか言い出して……私、どうしても止められなくて……!」
沈村政志は雨子を見ない。
視線は、ベッドの上で半ば意識を失いかけている若子に固定されていた。肌にべったりと付着した汚らしい精液を目にして、拳が勝手に握り込まれる。
「し、沈村さん……」
黒人の一人が口を開いた。
沈村政志は低く遮る。
「連れ出せ。撃て。犬に喰わせろ」
三人はその場で崩れ落ち、額を床に擦りつけるようにして叫んだ。
「沈村さん、命だけは! 沈村さん、お願いします! 俺たちは林原さんに――!」
言い終える前に、警護の男が四人雪崩れ込み、三人を引きずっていった。
廊下の奥で、すぐに乾いた銃声が響く。
雨子はその音にびくりと肩を跳ねさせ、恐る恐る沈村の袖を掴もうとする。
「政志、私ほんとに止めようと――でも、この人が……」
「お前も出ていけ」
沈村政志の声は、氷みたいに冷え切っていた。
雨子は唇を噛み、それ以上は何も言わず、扉の外へ消えた。
沈村政志はベッドへ一歩ずつ近づく。
カメラはまだ回っていた。モニターには、若子が複数に蹂躙される映像が繰り返し映し出される。その内容は、かつて彼に見せられた「浮気の証拠写真」と、異様なほど重なっていた。
沈村は画面を見つめ、顎の筋肉をぎり、と硬くする。手の甲に血管が浮いた。
若子はぼんやりと意識を取り戻し、かすむ目を開けた。そこに、見慣れた影がある。
「……沈村政志……」
救いを見つけたみたいに、残り少ない力を振り絞って手を伸ばす。
「病院に……連れてって……」
沈村政志は見下ろしたまま、目の奥に温度を一切宿さず、薄い唇を開いた。
「その姿を見てると、今すぐ死んでほしい」
