第114章

その頃、もう一方では――。

マイバッハが滑るように車線へ入り、揺れひとつなく走り出す。

車内は、針が落ちる音さえ聞こえそうな静けさだった。

鈴宮若子は本革のシートに身を預け、眉間にわずかな皺を寄せたまま目を閉じる。胃の奥で渦巻く吐き気が、まだしつこく波打っていた。

さっき沈村政志が見せた狂気が、彼女を三年前の地獄へと一気に引きずり戻したのだ。

若子は奥歯を噛みしめ、拳を固く握る。

やがて目を開け、隣へ視線を向けた。

反対側の席に、江原白矢が座っている。首をわずかに傾け、窓の外の街並みを真っすぐに見つめていた。背筋は一本の棒のように伸び、顎のラインは強く張りつめている。いつも柔ら...

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