第30章

鈴宮若子はベッドの上で身を縮め、右手で胸元を必死に押さえたまま、激しく咳き込んだ。

咳のたびに全身が震える。だが沈村政志は容赦なく彼女の病衣の襟をつかみ、ぐいと持ち上げる。

「喋れ!」

鈴宮若子の唇が、かすかに震えた。

――何を言っているのか、わからない。

エディソンの薬で、ほんの一瞬だけ意識が澄んだ。けれど次の瞬間、頭の中に散らばった断片が、狂ったように押し寄せてくる。

過去と今の区別がつかない。現実と幻覚の境目も、溶けていく。

覚えているのは辰也だけ。

巻き込まれてしまった弟――その存在だけが、彼女の奥底を支えていた。

だから本能のままに、この生殺与奪を握る男へと縋りつ...

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