第35章

彼女が起き上がる間もなく、耳元でふいに荒い息づかいが弾けた。爪が床を引っかくざりざりという摩擦音。鎖がぶつかり合う、きん、と乾いた金属音。

低い獣の唸りが、いくつも病室に反響する。

鈴宮若子の血の気が、一瞬で引いた。頭皮が粟立つ。

――犬だ。それも一匹や二匹じゃない。しかも、やたらとデカい。

革靴が床板を叩く音。沈村政志が彼女の前まで来て、ぴたりと足を止めた。

「沈村政志……」若子は両手で床を突っ張り、ずるずると後ずさる。「なにする気……?」

沈村政志は見下ろすように立ち、床で震える女を眺めた。胸の奥の苛立ちが、さらに火力を増す。

「男が好きなんだろ」沈村政志はネクタイを乱暴に...

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