第65章

鈴宮若子は下唇をぎり、と噛みしめた。口の中に濃い鉄の味が広がる。

「……金なら出す」

かすれた声を、喉の奥から無理やり絞り出す。

男は鼻で笑い、振り向きもしなかった。

「お前が? 俺に金を?」

片手でハンドルを握ったまま、もう片方の手で後ろを指す。鈴宮若子の、泥と破れでみすぼらしくなったトレンチコートを。

「その格好で1円でも出せんのかよ。金を出すだぁ? 沈村様はな、ガチで懸賞金100万だぞ! しかも現金!」

鈴宮若子は身をずらし、できるだけ運転席の背もたれに近づいた。

「……私、金ならいくらでもある」

男が苛立ったように舌打ちする。

「黙れって! お前が沈村様より金持っ...

ログインして続きを読む