第69章

鈴宮若子は目を閉じ、涙が目尻を伝って落ちるのに身を任せた。

だがすぐに、袖で乱暴に拭い取る。

泣いちゃだめ。

少なくとも、ここでは。

あの男に見られるわけにはいかない。

そのとき、廊下から足音がした。

軽く、ゆっくりと。

続いて、鍵が回る音。

鈴宮若子ははっと目を見開き、扉へ視線を向ける。

扉が押し開けられた。

立っていたのは沈村政志だった。手にはトレイ。

着替えたらしい。濃いグレーの部屋着で、髪は洗ったばかりなのか、まだ少し湿っている。

昨夜など何もなかったかのように、ひどく落ち着いた顔。

沈村政志は部屋へ入り、背中で扉を閉めた。

ベッド脇まで来て、トレイをサイ...

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