第72章

沈村政志は鈴宮若子を抱えたまま、大股で部屋を出た。

屋敷の使用人たちは一斉に頭を垂れ、誰ひとりとして目を合わせようとしない。

マイバッハが本館の前に停まっていた。護衛がドアを開けると、沈村政志は鈴宮若子をそのまま後部座席へ放り込む。

女の身体は羽みたいに軽い。抱き上げたとき、骨が当たってやけに痛かった。

車内灯は点いていない。

鈴宮若子は本革シートの隅で身を縮め、まぶたを落としたまま微動だにしない。沈村政志がどこへ連れて行こうと、欠片ほどの興味もないようだった。

沈村政志は隣に座り、ネクタイを乱暴に緩める。窓を半分下ろすと夜風がどっと逆流してきたが、身体の奥で燃える苛立ちはちっと...

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