第84章

沈村政志が立ち去ったあと、林原雨子は控室の扉の外に立ち尽くしていた。さっきまで中で起きていたことは、耳に痛いほどはっきり聞こえていた。

壁にもたれ、ネイルの尖った先が掌の柔らかい肉へ深く食い込む。

その痛みなど、胸の奥で燃え上がる嫉妬に比べれば、どうということもない。

政志は、あのクズのために大崎信孝にまで手を上げた。10億の契約だって捨てられる男だ。

それなのに、鈴宮若子のたった数言で、あの中で狂ったようになっていた。

雨子は政志をよく知っている。

あれは鈴宮若子への執着――所有欲が暴れているだけだ。つまり、まだ気にしている。

このままでは、鈴宮若子はいずれ政志の心へ戻ってく...

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