第85章

鈴宮若子は目を開けたまま、沈村政志の唇が動くのを見ていた。けれど、彼が何を言っているのか――まるで聞こえない。

沈村政志の堪忍袋の緒が、ぷつりと切れた。

ソファにいる女を睨み据える。鈴宮若子は弁解もしない。命乞いもしない。その反応は、沈村政志の目には「認めた」と映った。

「クズ!」

歯ぎしりするように吐き捨てると、沈村政志は歩み寄り、鈴宮若子の髪を鷲掴みにした。ぐい、と容赦なく力を入れ、そのままソファから引きずり下ろす。

頭皮が裂けるような激痛が走った。

無理やり顔を上げさせられ、喉の奥に濃い鉄の味がこみ上げる。声を出そうとしても、息が詰まって何も出ない。

――音が、ない。

...

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