第86章

そのときの鈴宮若子は、泥の上にみっともなくうつ伏せになっていた。背後の闇には、いくつもの視線が潜み、息を殺して彼女をねっとりと見据えている。

耳には何も届かない。あるのは、ただの死んだような静けさだけ。

土の生臭さと濃い血の匂いが混ざり合い、鈴宮若子の鼻先を刺した。

両手で地面を必死に掻き、ほとんど使い物にならない右脚を引きずりながら、彼女は一寸ずつ前へ這う。

沈村政志がなぜ自分をここへ捨てたのか、理由はわからない。わかっているのは――死ねない、ということだけだった。

辰也はまだ療養院にいる。自分が死ねば、辰也も終わる。

爪が地面を擦って割れ、十本の指はずたずたに削れて、骨まで響...

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