第93章

林原雨子は掌をぎゅっと握り締め、爪が肉に深く食い込むほど力を込めた。

一歩前へ出て、声の調子だけを柔らかくする。

「政志さん、そんなに心配しないで。お姉さんは運が強いんだから、きっと乗り越えられるよ」

ティッシュを一枚抜き取り、沈村政志の手についた汚れを拭こうとした、その瞬間。

沈村政志が乱暴に払いのけた。

「触るな!」

林原雨子の手の甲が赤く腫れた。

きょとんと目を見開き、次いで瞳の奥に悔しさが滲む。今にも泣き出しそうな顔。

けれど沈村政志には慰める気配など欠片もない。

林原雨子は歯を食いしばった。

「……わかった。私、行くね。政志さん、怒らないで。すぐ消えるから」

...

ログインして続きを読む