第3章
アリステアは青年のそばへと歩み寄った。
「妹さんの名前は? 年はいくつですか?」
「ミアです。十七歳になります」青年は強く鼻をすすり上げた。「レストランでアルバイトをしていて、いつもなら遅くとも九時には帰ってくるんです。驚かせようと思って遠方から帰ってきたのに、丸一日待っても帰ってこなくて」
「落ち着いてください」アリステアはイーサンへと視線を向けた。「こちらには一体の——」
「いい」イーサンがその言葉を遮る。「まずは確認させろ」
青年の顔からさっと血の気が引いた。
「見つかったんですか? ミアはどうなったんですか?」
「妹さんだと決まったわけではありません」アリステアは静かな声で告げる。「まずは私についてきてください」
扉の前に差し掛かったとき、青年はドア枠にすがりつき、全身を小刻みに震わせていた。
アリステアは手を伸ばして彼を支えた。青年が足を踏み出そうとした瞬間、スマートフォンが鳴り響く。
彼はそれを取り出して画面をひと目見ると、通話に出た。その声は先ほどとはまるで違っていた。
「ミアか? 今どこにいるんだ?」
「お兄ちゃん、なんであんなに何回も電話してきたの? 今日は友達の家で誕生日を祝ってもらってるんだよ」
電話の向こうから、弾むような少女の声が漏れ聞こえてくる。
「もしかして泣いてるの? 誕生日プレゼント買い忘れて、私が怒ると思ったんじゃないの?」
青年の目から、どっと涙が溢れ出した。だが今度こそ、彼は笑みを浮かべていた。
「忘れてないよ。今からすぐ行く。待っててくれ」
彼は電話を切ると、一度も振り返ることなく駆け出していった。
アリステアはその場に立ち尽くし、ふうっと長く息を吐き出す。
私は廊下に佇み、心の中にぽっかりと穴が空いたような虚無感を覚えていた。
彼の妹は、友達の家で誕生日を祝っていただけだった。
私の兄は、私が死んだことすら知らない。
翌日、アリステアが検死室に足を踏み入れると、イーサンは報告書の整理にかかりきりだった。
「リアの行方は分かったのか?」
イーサンは顔を上げることもなく答える。
「アリステア、まだあいつのことを気にしてるのか」
「もう何日も連絡が取れないんだろう」
「あいつはもうガキじゃない」イーサンは手元の資料をめくった。「どこで何をしてようと、俺には関係ない」
アリステアがさらに何かを言いかけたとき、イーサンの携帯電話が鳴った。彼は画面を一瞥すると、そのまま通話を切断した。
「誰からだ?」
「リハビリ科の連中だ」イーサンは携帯電話を伏せて机に置いた。「またリハビリへの参加を促す電話だよ。あいつが自分でサボってるくせに、こっちに連絡してきやがる」
再び着信音が鳴り響く。イーサンはそれを手に取って画面を確認し、通話ボタンを押した。
「ベネットさん、リアさんが数日連続でリハビリを欠席されています。こちらからも連絡がつきませんで——」
「行かないなら放っておけばいい。俺に電話してきてどうなる?」
「ですが、緊急連絡先がベネットさんになっておりまして——」
「俺はあいつの保護者じゃない」イーサンの声が冷たく凍りつく。「あいつのことでいちいち俺に構うな」
彼は通話を切ると、携帯電話を乱暴に机へ放り投げた。
数秒の沈黙の後、彼は再び携帯電話を手に取り、アドレス帳をスクロールして私の番号を見つけ出すと、発信ボタンを押した。
応答はない。
音声ガイダンスが鳴り終わるのを待ってから、彼は苛立たしげに口を開いた。
「リア、一体いつまでふざけた真似を続ける気だ? もし俺の結婚式をすっぽかすようなことがあれば、二度と妹とは思わないからな。俺は本気だぞ」
アリステアは数秒ほど彼を見つめていたが、何も言わずに再び事件の業務へと戻っていった。
その日の夜は、結婚式前に行う最後のウェディングドレスの試着だった。
セリーナが試着室から出てきたとき、イーサンの目がぱっと輝いた。
「似合うかしら?」
彼女がその場でくるりと回ると、ドレスの裾がふわりと広がる。彼女は満面の笑みで彼を見つめた。
「ああ、綺麗だ」
イーサンは歩み寄り、彼女の肩紐を直してやる。
セリーナはそっと手を伸ばし、彼の頬に触れた。
「目が充血してる。あまり眠れてないの?」
「言わないでくれ。例の事件がまったく進展しないんだ」
「無理しすぎないでね」セリーナはうつむき、ひそやかな声で言った。
イーサンの視線が、彼女の手首に留まった。
右の手首にはシャンパンカラーのリボンがちょう結びにされており、その下の肌がうっすらと赤く腫れているのが見えた。
「それはどうしたんだ?」
セリーナの表情が一瞬だけ強張り、無意識のうちに手を後ろへと隠す。
「なんでもないの。ただ、昨日おばさんの家へ招待状を届けに行ったときに……」彼女は唇を噛み締めた。「リアが私を家に入れてくれなくて、突き飛ばされただけ」
イーサンの顔が途端に険しくなる。
「あいつ、お前に手を上げたのか?」
「大丈夫よ」セリーナの声は次第に小さくなり、視線はあらぬ方向をさまよっていた。「だから、彼女を怒らないであげて」
イーサンは彼女の手首を掴み、もう一度その傷跡を確認して眉を深くひそめた。何かを言おうとしたそのとき、彼の視線が不意に彼女の薬指へと引き寄せられる——そこには、一つの指輪がはめられていた。
くすんだブロンズ色の、ひどく古い指輪。縁の部分は擦り減って鈍い光を放っている。
彼の瞳がわずかに細められた。
「お前、その指輪——」イーサンの声のトーンが変わる。
セリーナは彼の視線を追って手元を見下ろすと、さっと手を引っ込めた。
「これ……昨日おばさんの家の前で拾ったの。すごく綺麗な指輪だから、そのまま捨て置くのはもったいないと思って」
イーサンは彼女の顔をじっと見つめたまま、押し黙った。
あれは、お母さんが私に残してくれた大切な指輪だ。何年もの間、シャワーを浴びるときでさえ一度も外したことなんてないのに。
私がそれを捨てるはずなんてない。
「着替えてくるわね」
セリーナは彼の視線に居心地の悪さを感じたのか、くるりと背を向けて試着室へと歩いていった。
イーサンは素早く携帯電話を取り出し、私の番号を呼び出して発信した。
二度目のコールで、通話が繋がった。
電話が繋がったことに、私自身もひどく驚いていた。
「リア!」イーサンの怒声が弾けた。「てめえ、一体どういうつもりだ! セリーナが何をしたって言うんだ? 彼女を突き飛ばして怪我をさせただけじゃ飽き足らず、母さんの指輪まで捨てたのか? いいか、もしお前が——」
「イーサンか?」
彼は呆然と立ち尽くした。
「これは事件現場で発見された、被害者のスマートフォンなんだが」受話器の向こうから、アリステアの声が響く。「君と彼女は、どういう関係なんだ?」
