第112章

男の芳醇な声が耳に落ちた瞬間、菅田友香の胸が、かすかに跳ねた。

けれど、彼女がもう一度顔を上げて男を見たときには、藤原雅彦はすでに背を向け、店員にカードで支払うよう告げていた。

「そんな……」

慌てて止めようとした菅田友香を、藤原雅彦はひとつの視線で制する。

「明日、君に俺のパートナー役を頼みたい。このドレスは……その礼だと思ってくれ」

まだ迷いの残る菅田友香の隣で、藤原陽向が彼女の手をぶんぶん揺らしながら甘えた。

「きれいなお姉さん、お願い。パパの頼み、聞いてあげて?」

子どもに甘えられると、菅田友香はどうしても弱い。

一秒だけためらってから、とうとう頷いた。

「……じゃ...

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