第137章

時間が迫っていた。菅田友香は迷う暇もなく、契約書にさらりとサインを入れる。

次に藤原雅彦が署名する番になると、友香は彼の隣に立ち、少し身を乗り出して手元を覗き込んだ。

すると、彼女の纏うほのかなジャスミンの香りが、山あいに立ちのぼる朝靄みたいに、じわりじわりと――気づけば藤原雅彦の胸の奥へ染み込んでいく。

ペン先が紙を滑り、ふっと止まった。

その一瞬、インクが滲み、小さな黒い点がぽつりと落ちる。

けれど菅田友香は異変に気づかない。むしろ紙面の文字に見入ったまま、ぽつりと言った。

「叔父さん、字……習ってたんですか? すごく綺麗」

藤原雅彦はわずかに目を瞬かせる。

「……俺の字...

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