第032章

藤原行船の顔を見て、菅田友香は悟った。――この男、封筒の中身をまだ見ていない。

友香は大股で部屋を出ると、廊下へ向かって声を張った。

「田中さん」

すぐに、手を布巾で拭きながら田中が小走りで現れる。

「奥様、何かご用でしょうか」

「私が出ていく日に、藤原行船に渡してって頼んだもの。渡してくれた?」

田中は少し考え、確信に満ちた顔でうなずいた。

「はい、確かに旦那様へお渡ししました。ただ……開けもせず、そのまま置きっぱなしで。後で私が拾いまして、1階のサイドロビーに置いておきました」

友香は小さく息を吐く。ため息にもならない。

「じゃあ今、それを持ってきて」

「かしこまりま...

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