第009章

そのときだった。藤原行船のスマホが唐突に鳴り出し、菅田友香の声を着信音がかき消した。

「行船! 早く病院に来て! 有紀が……!」

藤原行船の顔色がすっと沈む。

「わかった。今すぐ行く」

通話を切るなり、彼は妻を一瞥した。声音は氷みたいに硬い。

「有紀に何かあった。これで満足か?」

そう吐き捨て、振り返りもせず大股で出ていった。

菅田友香はその場に静かに立ち尽くし、遠ざかっていく背中を見送る。胸の内は、不思議なほど凪いでいた。

――心が死ぬと、何もかもどうでもよくなる。

田中さんに食卓の片づけを頼み、友香はそのまま寝室へ戻った。

一日中張り詰めていた糸が切れたみたいに、ベッ...

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