第095章

藤原彩香の耳に、かすかな「コトッ」という音が届いた。何かがバッグの中に落ちたような音だった。

彼女が反応するより早く、菅田友香が「あっ、ごめんなさい。何かそっちのバッグに入っちゃったみたい」と声を上げる。

そう言いながら、ためらいもなく手を差し入れ、中からひとつの品をつまみ出した。

――書画用の印泥。

その瞬間、藤原彩香の心臓がどくんと跳ねた。慌ててバッグの中へ視線を落とし――

「きゃあっ!」

信じられないものでも見たかのように、その場で悲鳴を上げた。

娘の取り乱した様子に、藤原雅子は藤原家の体面を損ねることを恐れ、すぐさま彩香の腕をぐいと掴むと、低い声で叱りつけた。

「何を...

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