第143章

岩崎奈緒は、ひとまずこの一億六千万円を返し、銀行からの入金があり次第、すぐに自分の家を売却するつもりでいた。藤原光司に借りを作るわけにはいかない。利息もきちんと上乗せして返すつもりだった。

しかし今、藤原光司は受け取りを拒否し、しかも怒っている。何を考えているのか、彼女にはさっぱり分からなかった。

藤原光司が口を開こうとしたその時、少し離れたところから温水聡の声が聞こえた。

「光司、まだ行かないのか?」

温水聡もかなり飲んでいたが、酔ってはいなかった。一目で藤原光司の前にいる岩崎奈緒の姿を捉える。

「二人で何をこそこそ話してるんだ?」

藤原光司は二人との距離を取ると、先に歩き出し...

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