第322章

鈴木蘭自身も、この老夫婦のことが好きではなかった。むしろ、心底から嫌悪している。貧乏臭い田舎者二人が、どうして岩崎家の敷居を跨ぐことができようか。

その上、別荘に入ってからというもの、二人の目には貪欲な光ばかりが宿っていた。明らかにこの屋敷を我が物にしようと企んでいる。

しかし、岩崎奈緒への当てつけのために、鈴木蘭はこの老夫婦の要求を呑まざるを得なかった。

「お母さん、おっしゃる通りですわ。弟さんの住宅ローンは、あといくら残っているのかしら」

「五千四百万円だよ。毎月六十万円の返済でね。あの子ももうすぐ五十だっていうのに、近頃は会社でリストラも始まっててね。もしこの仕事を失ったら、ロ...

ログインして続きを読む