第340章

ドアの開く音を聞き、彼女は新聞を置いた。ここで長く待っているうちに、先程までの不機嫌な気持ちは次第に落ち着いてきたが、それでもこれからやろうとしていることを変えるわけにはいかない。

「藤原社長」

彼女は丁寧な口調で呼びかけた。

藤原光司は黒い大理石のデスクの後ろまで歩いていくと、革張りの椅子に腰を下ろした。

「用があるなら二時間後だ。先に会議をする」

岩崎奈緒はまつ毛を伏せた。どうせ二時間待ったのだから、これ以上待つことも厭わない。今夜、必ずやり遂げなければならないのだ。

「かしこまりました。藤原社長、どうぞお構いなく」

藤原光司が顔を上げると、その深淵な視線が彼女に注がれた。...

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