第351章

その声色から、岩崎奈緒は彼が本気で酔っているのだと察した。でなければ、こんな質問をするはずがない。

彼女は素早く頭を働かせた。

「いえ、そうではなくて……こんな真夜中に犬を届けに来てくれたら、もし主人に知られたら、説明に困るんです」

その言葉が終わると、電話の向こうは沈黙に包まれた。

スクリーン越しではあるが、岩崎奈緒はそれでも一種の圧迫感を感じた。

彼女が何かを言い足そうとした瞬間、向こうは「プツッ」という音とともに電話を切った。

岩崎奈緒は呆然とし、彼がうっかり切ってしまったのだろうと思い、かけ直した。

しかし、藤原光司は出なかった。

一度かけても、出ない。

二度かけて...

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