第380章

「ずいぶんと初心だな。お前の主人は大したことないらしい」

情が移ったのか、彼の声は少し掠れていた。

岩崎奈緒の世界は混濁としており、口を開く勇気すら湧かなかった。

緊張で死にそうで、誰かがドアを開けて入ってくるのではないかと怯えたり、向かいのビルから誰かに見られているのではないかと不安になったりした。

結局、彼女は彼に弄ばれるうちに気を失ってしまった。

午前五時、藤原光司はようやくスーツの上着を彼女にかけ、抱きかかえて自分の車へと乗り込んだ。

もし以前、誰かにオフィスで女と馬鹿なことをすると言われたら、彼は絶対に信じなかっただろう。

彼は仕事の鬼であり、オフィスは神聖な場所なの...

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