第387章

藤原光司の胸がどきりと高鳴り、ゆっくりと顔を寄せ、彼女の唇にキスをしようとした。

しかし彼女はすっと顔を逸らし、赤い唇に落ちるはずだったキスは、頰へとずれた。

「藤原社長、まだ歯を磨いていませんので」

岩崎奈緒の一言は、いとも容易く甘美な雰囲気を打ち砕いた。

藤原光司は彼女をじっと見つめた。

彼女は自分の拙い小細工が見抜かれるのを恐れ、彼と視線を合わせられずにいた。

しばらくして、彼女は尋ねた。「着るものはありますか?」

藤原光司は傍らのクローゼットを開け、無造作に自分のシャツを一枚取り出すと、彼女に放り投げた。

「着ろ」

岩崎奈緒はほっと息をつき、急いでシャツに袖を通した...

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