第396章

岩崎奈緒は男女の機微にだけは疎く、藤原光司の声音に含まれたニュアンスを読み取れず、素直に答えた。

「当然のことをしたまでです」

藤原光司は何も言わず、息が詰まるのを防ぐかのようにシャツのボタンを緩めた。

そして、そのまま電話を切った。

向こうから聞こえてくる「ツー、ツー、ツー」という音に、岩崎奈緒は少し意外に思った。何か言い間違えたのだろうか?

藤原光司の機嫌は、本当に気まぐれだ。

夜。

藤原光司はホテルの部屋に戻った。床はすでに消毒済みだったが、清掃係にはわざわざ、ベッドは片付けないようにと指示してあった。

以前なら、彼のベッドも消毒させていたはずだ。

スーツを無造作に脱...

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