第10章

笠原灯は、古川司真が自分の手首を掴んでいる手を睨みつけた。瞳の奥の冷気が、いまにも溢れ出しそうだった。

二人の男は背丈こそ近い。だが放つ空気は、まるで別物だ。

古川司真は、見ている側の神経まで落ち着かせる静けさを纏っている。一方で笠原灯には、刃みたいな怒気が張りついていた。

笠原灯は乱暴に手を振りほどき、古川の肩越しに視線を突き刺す。標的は篠原霧音だった。

「篠原霧音。まだ離婚も成立してないのに、次の男はもう用意できたってわけか?」

「俺と離婚したいのは、古川司真がいるから?」

篠原霧音は、可笑しくてたまらなかった。

――これが、十年も愛した男。

馬鹿馬鹿しい。

彼女は古川...

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