第108章

篠原霧音はもう彼らを一瞥もしないまま奈々を抱き上げ、古川司真に言った。

「先輩、行きましょう」

古川司真は小さくうなずき、篠原霧音と奈々をかばうようにして外へ向かう。

笠原灯が反射的に追いかけようとした、そのとき――。

「笠原社長」

古川司真は笠原灯の横を通り過ぎる瞬間、足を止めた。声には、薄く笑うような皮肉が滲む。

「今日の件、最後は笠原社長が手を貸したのは事実です。でも、普段から奈々を放ったらかしにしていなければ、あんな噂話が子どもの耳にまで入ることもなかったはずだ」

笠原灯の顔色が、みるみる悪くなる。

「古川司真……お前に俺を説教する資格があるのか」

「説教する資格な...

ログインして続きを読む