第114章

笠原灯はキッチンに入るなり、篠原霧音の手元からさっと荷物を受け取った。

「俺がやる」

「住みたいなら勝手に住めば。私はホテル探すから」

霧音は灯を見もしない。玄関へまっすぐ向かうと、ハンガーからトレンチコートを乱暴に引き剥がした。

ハンドバッグのファスナーを開け、身分証とスマホがあるかを俯いて確かめる。

そのとき――主寝室のドアが、バンッと音を立てて開いた。

木下春実が霧音の「出ていく気配」を見て取るや、数歩で玄関まで突進してきた。

太った身体でドア前をどっしり塞ぎ、逃げ道を潰す。

「こんな夜中に、どこ行くつもりよ!」

春実は訳も分からないまま声を張り上げ、指先を霧音の鼻先...

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