第12章

笠原灯が去った途端、篠原霧音は膝から力が抜け、冷たいタイル壁に背を預けたままずるずると滑り落ちた。床にへたり込む。

胃の底がぐらりとひっくり返り、吐き気がこみ上げた。

あの唇だ。ほかの女に触れた唇で、自分に――そう思っただけで吐きそうになる。

けれど、えづいても何も出ない。

そっと指先で唇に触れた瞬間、ずきりと痛みが走った。

篠原霧音は洗面台に手をつき、無理やり立ち上がる。

鏡の中の女は髪が乱れ、顔色は紙みたいに白い。なのに唇だけが真っ赤に腫れ、今しがた乱暴に弄ばれたとでも言うような有り様だった。

これでは、誰が見ても分かる。ここで何があったか。

――滑稽だ。

結婚してから...

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