第126章

車は篠原霧音が借りているマンションの敷地内へ滑り込み、建物の下で停まった。

本当なら、今日は帰るつもりなんてなかった。

けれど木下春実に「帰ってこないなら奈々の幼稚園の前で待ち伏せする」と脅されてしまえば、選択肢などない。

結局、篠原霧音は折れた。

「今日は……助かりました」

車のドアを押し開けながら言う。二人とも、さっき起きたことには触れない。触れないほうがいい、と分かっていた。

「帰ったら早く休め」

今野天が小さくうなずく。

篠原霧音はドアを閉め、テールランプが夜の奥へ溶けていくのを見送ってから、ようやく身を翻して建物へ向かった。

二歩、三歩。

そのとき、脇の影からぬ...

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