第131章

彼はスマホを取り出し、秘書へ電話をかけた。

「調べろ。最近、心不全の分野でいちばん権威のある専門家はどこの国にいる。金はいくらでも積め。必ず連れてこい」

通話を切ると、笠原灯は屋上に立ったまま、長いこと動かなかった。

身体に染みついた煙草の匂いが薄れていくのを待ってから、ようやく踵を返し、階段を下りた。

それからの二日間、笠原灯は家に戻らなかった。

昼は会社で山のような書類をさばき、夜は病院へ向かって清水恵のそばにいた。

清水恵が目を覚ますたび、彼女は期待に濡れた目で灯を見上げる。けれど、聞くべきことは何ひとつ口にしない。聞かない、という「利口さ」。

その無言の圧が、灯の胸をじ...

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